Paint:04

「なんか、どうでもいい話だったな。」
“虫”から盗った情報を再度聞きながら示記は工場の屋根に飛び乗った。
「ねぇ、やっぱりおかしくない・・・?何で運営者がじきじきに来るんだろう?」
「当たり前だろ?巷を騒がすポスタージャック様がやってくるんだ。一目拝んでおきた いんじゃないのか」
示記が工場を乗り越え、屋根に着地するとターゲットが間近に迫る。
公園は厳重体 勢がしかれ、サーチライトが三本、示記を捕らえようと左右に動いている。

「さて、ちゃっちゃと下準備〜♪」
示記は不可解な歌を口ずさむと公園を見下ろせる屋根に移り、手に対油手袋をはめ、鞄 から濃紺のペンキと黒のペンキの瓶を取り出した。
まず手袋をはめた手のひらに黒いペンキを垂らす。ペンキはじゅうじゅうと危険な音を 立てて丸くまとまった。その上にさらに濃紺のペンキを垂らし、まとめる。あっという 間に怪しすぎる泥団子が出来上がった。その団子を九つほど作った後、鞄から小型のパ チンコを取り出し、団子をセット。
ゴムを引き伸ばす。

「蛇尾丸、仕事開始だ。気を抜くなよ」
「オッケー。そっちこそね」
示記はゴムを離した。団子は磁気に引きつけられるようにサーチライトの一つに向かっ ていき、命中した。示記は休まずに九つの団子を全て打ち出す。
たちまち、公園を照らすものはすっかり暗くなって、一層輝きだした星だけになった。

突然の出来事によりパニくった人々の騒音とじゅぅううと団子が当たった照明 器具の焼ける臭いに包まれた。示記は暗闇の中を素早くかいくぐり、「ごんべえ」の屋 根へと着地した。服の中から取り出した懐中時計の文字盤に目をやると9時35分。
「なんだ全然余裕じゃん。示記、早く仕事済ませよう」
蛇尾丸が横から口を挟む。
示記はうんと言って再び鞄をあけ、『滅律砂』という下に“解毒インキ”と小さく書か れたラベルが張ってある黄色いビンと四角い缶を取り出した。四角い缶を開けると、大 小さまざまな大きさの筆が入っている。その中の一番太い筆を取り出し、ビンの中のイ ンクに浸すと、おもむろにターゲットの看板に筆を走らせる。
看板には黄色いインクがじわっと広がっていく。その間示記は目をつぶって来るであろ うペンキの効果を待った。が、
「おかしい。一分も経てば毒物が無害な液体になって出てくるはずなのに」
「ねぇ、今更だけど場所間違った?」
「いや・・・・・・そんな事は無い」
示記は不安を突きつける蛇尾丸を否定し、目前ですっかり黄色くなっている看板を見た 。天気予報には無かった突風が再び吹き始める。
「・・・!」
示記は何かに気づいたかのように周りを見回す。
目に留まったのは反対側にあるビ ルの一角、屋上にある看板。布でできた横断幕のような看板が強風にあおられていた。 と突然、看板の中央が破ける。
「!!」
示記は確信した。

「蛇尾丸!力を貸して!すごくキケンな事に気がついた」
「オッケー。後で何かおごってよー」
示記は反対側のビルへ向かって猛ダッシュする。
看板がビリッと音を立てて裂けた。
「ちっ」
示記は途中の屋根に置き去りにされていた工具をつかむと、墨に浸した蛇尾丸で≪封魔 針≫と書く。工具は文字から広がる墨に包まれ、黒光りするクナイに変わった。
看板の裂け目の一点に的を絞ると、クナイを投げた。クナイは風を切り、狙い通りの場 所へ命中する。
同時に「キィィィイ」と動物の鳴き声が響き、クナイの刺さったイ タチが空中に姿を現した。イタチはぴくぴくと手足を痙攣させ、必死にビルの屋上に行 こうとしている。
茶色いふさふさした毛を持つ普通のイタチのようだが、前足のあ るべきところに前足は無く、代わりに鎌が鈍く光っていた。
「やっぱり“カマイタチ”だったんだ」
風がやんだことにより、示記は改めて確信する。
やっと反対側のビル『保吉』に着くと、屋上に着地したカマイタチが力尽きて、ポンッ と音を立てて大きな鎌に戻るところだった。
「早く、解毒しなくちゃ」

「・・・示記!待って!」
蛇尾丸が静止するのも聞かずに走り出した示記は、巻きついてきた何かに足を獲られ、 転んだ。蛇尾丸、鞄、解毒インクをしみこませた筆が散り散りに示記の元から離れた。
「トラップ!?」
示記が見渡すと、屋上のあちらこちらに黒い線が引かれている。示記に巻きついてくる 線はまるで添え棒に巻きつくツタのようにずるずるとはい上がり、示記の身体の自由を 奪っていった。
「くっ・・・あともう少しなのに・・・・・・!」



「あらあら、私の付喪神をダウンさせるほどの実力ですのに、もったいないですわね」
示記の目の前に人影が立った。示記はキッと睨みながら人影に問う。
「何故ですか?よろしければ理由を知りたいんですけどねぇ・・・琴美さん?」
茶色い髪が風に揺れた。
「私は貴方の事務所で、父が高飛びする、と言いましたよね?あれは半分真実で、半分 ウソです。

私の父は既に亡くなっています。」

緑色の瞳が揺れた。
「私は6歳の頃この力があることを知りました。両親は一生懸命私をかばってくれまし た・・・なのに、2ヶ月前、このビルの運営者の角中が私の秘密を知ってしまったのです。 奴は父に、税金の横領を要求してきました。父は私を守る為に沢山の脱税をしてきまし た。ついにはその埋め合わせを自分の保険金で払い通す事もしてしまったのです。それ なのに、奴は哀れむどころかそしらぬふりをしてのうのうと生きている。今現在、植道 議員の顔は私が変身してやっていますが、どうしても許せなかった・・・許したくなかっ た・・・!だから私は貴方に依頼をしたのです。貴方の名が出れば奴は必ず来ると思った 。そして今日、私は奴に怒りをぶつけ、裁きます!」
屋上の床に涙がぽたぽたと落ちた。赤らめた顔と、涙で濡れた眼は相談に来たときと同 じ、一途なものをたたえていた。琴美は腕時計を見て、示記の目の前につきつける。
「10時まであと3分私の荷が降ろせるのも間近です」
示記は唇を噛む。

「ふざけるなよ!
あんたに振り回されたこっちの身にもなれっての!」
遠く転がる蛇尾丸が声をはりあげる。
「あら、貴方も付喪神のようですけど、そんな筆に何が出来ますの?
言っときますけど、貴方の変化型では私のトラップの犠牲になるのは確実ですよ」
「付喪神は2段階しか変化できないだなんて言われた覚えはないよ」
そう言い終わるか終わらないかのうちに、ポンッという音と共につむじ風に似た風が起 こった。その風の中から蒼い生物が筆をくわえて、茶色の房毛をなびかせながら弾丸の ように看板へ迫った。
くわえた筆の黄色くインキが染みこんだ毛先が看板につくか、つかないかの所までに迫 った瞬間、蛇尾丸は司法から伸びたトラップに巻きつかれてしまった。
「ぐあっ」
「蛇尾丸!!」
悲鳴を上げた蛇尾丸の口から筆がぽろりと落ちた。





SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送