Paint:05

「切り札も無駄になってしまいましたね。さて、残り15秒を切りました。景気付けにカ ウントします。14、13、12・・・」

示記は始まって以来の危機を感じた。
がっくりと頭を垂れる。

5。

蛇尾丸は力の限りもがき続ける。
「ちくしょうっ、放せよ!は な せー!」

3。

示記の鞄から何かが飛び出した。
それはビル屋上に巨大な風のうねりを作り、琴美は「きゃ」としゃがみ込む。

1。

沈黙が辺りを包んだ。


が、示記は来るであろう人々の悲鳴が全く耳に入ってこないことを不審に思い、顔を上 げる。
示記、琴美、蛇尾丸其々の視線が看板に集中した。
看板は白から黄色に変化を遂げていた。

そしてその看板の前には筆をくわえた 白虎がトラップを墨で打ち消して立っていた。
「一人に一匹の付喪神が憑くって言うのも、言われた覚えがないね」
虎の口元がにやっと笑う。
首に巻かれた黒の鉄玉がじゃりっと鳴った。

「うそ・・・そんな、私・・・」
放心した琴美の周りを虎が数回まわった。すると、琴美は支えを失った板のように、ふ っと倒れた。
「!」
「大丈夫。ちょいと墨の臭気に当てて気を失ってもらっただけさ。
 それにしても示記、大丈夫か?」
「うん、なんとか。有難う“墨華”」
墨華がトラップを打ち消してくれたおかげで自由になった示記がお礼を言う。
「先輩ーっ!お久しぶりですっ、これ外してくれませんか!?」
「そんなもん自分で解きやがれ。半人付喪神。示記のピンチに示記を守れないよーな付 喪神はいらねーっつの」
まだもがいている蛇尾丸は墨華にイタいことをびしっと指摘され、うなだれた。

示記は鞄を探り、青い透き通った液体のビンを取り出すと、琴美の額に一滴落とした。
「これは悪党に真実を吐かせるモノなのになぁ・・・本当は」
示記がぽつりと言ったちょうどその時、サーチライトが復活したらしくまぶしい光が闇 夜に慣れた示記達の目を痛めた。墨華が苦しそうにうなだれる。
「墨華、苦しいだろ?さぁ、もう中へはいって。今日は本当にありがとう」
「オレは示記の役に立てればそれでいいんだ。ありがと」
墨華は示記の手に吸い込まれるようにして居なくなり、示記の手には黒い、ツヤの無い 、でもどこか温かみのある硯があった。
「そっかー。先輩は長く活動していると固まるんですよね」
「“硯の魂”だからな、本来。それより、オレ達は早くとんずらした方が良さそうだ。 」
やっとトラップから抜けた蛇尾丸と硯その他を詰め込みながら、示記は逃げる算段をす る。と、ふと破けかけた布の先から液体が滴り落ちている事に気づく。
そして笑っ た。
「蛇尾丸、三十秒だけ時間をくれ!・・・・・書きたいものがあるんだ」



莫乃は特殊部隊N班と共に『保吉』ビルの屋上へと階段を駆け上がっていた。
示記によって照明が焦げたとき、莫乃やその他風紀委員とその部隊は強力剥ぎ取り洗剤 ≪ニューズ≫で照明の回復を優先していたために肝心のポスター・ジャックを仕留めら れなかったのである。
それでも、わずかな証拠を求めて莫乃は屋上の入口であるド アを開ける。
彼の目に飛び込んできたのは、蔦状に描かれてはいるが既に役目を終 えているトラップの黒い線。さらにそれに重なるようにして在る黒い水溜りが沢山。黄 色くなった看板。
それに、茶色い髪の毛の綺麗な女性が横たわっていた。
莫乃 の身体がわなわなと震える。
風紀委員はそれぞれ横から顔を出し、目の前の惨状に コメントをつける。
「わー。怪獣合戦でもしたのかなー?」
「あら、こんな惨状毎回よ。久理亜」
「・・・・・・黒」
「そーじたいへんだー♪」

「・・・おい」
莫乃が背後の隊員に話しかける。
隊員は目に見えそうな怒りのオーラにひるみながら「・・・はい?」と答える。
「今すぐ現場写真を撮れ。今すぐに!」
「はいぃぃぃぃぃい!!」
隊員は半泣きで写真を撮りまくり、N班の群へともぐりこんだ。
「・・・・・・」
莫乃は無言で白衣の左ポケットから真っ白なハンカチを取り出し、頭の上で三角になる ようにして巻く。いわゆる“三角巾”である。
「・・・・・・キャシャー!!!」
・・・・・・狂った。
獏乃は一言叫ぶとそれぞれに俊敏かつ適当な指示を出した。周りにいたN班は(真面目 に生きるってつらいんだなぁ)と感じながら作業に入った。

各々が其々の仕事 をする中、莫乃は黄色い看板に気がついた。
看板からはまだ水が滴り落ちて、ビル の壁を塗らしていた。莫乃が水をふき取ろうとして看板を見た時、少し驚きを見せ、そ して笑った。

しばらくして、隊員が看板の表を見ていた漠乃に、女性が目を覚ました事、刑事長が読 んでいる事を伝えに来て早く来て下さいと言ってビルの中へ消えて言ったのを見送った 後、莫乃ははるか遠方を見てつぶやいた。
「君にはいつも舌を巻くよ」
そして莫乃はビルを降りて行った。

看板には文字が記されていた。

『仇を行ふ者は仇を行はれぬ 
   今を生きる意味を見つけることこそ人が人生』
                    ポスタージャック




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