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「いえ、本当にすいません。勝手に家に上がり、いきなり取り乱したりしてしまって・・・」
 死神は示記の右正拳を受けた左ほほを時折さすりながら正面に座っている示記と蛇尾丸にもじもじと謝った。三人が座っているこの部屋は、普段示記が仕事≠するために使用している部屋だった。
「えーと・・・・・・先ず何から話せば・・・?」
「名と職(ま、大体分かるが)あと、この騒ぎの原因(まあ・・・以下略)俺達への依頼、そして代金!」
「そんないっぺんに言わないで下さい・・・私は異界黄泉国ヘカテ地区の新人死神、トム・スマッシュと申します。私達は死神≠ニ言われていますが、大きく分けて三つの役割があります。まず一つ目は、ご存じ『人間から命を奪う』ことです。これは黄泉国公認魂狩りリストという、まあ平たく言えばブラックリストなんですが、そのリストに記入された人間を一ヶ月に一回、一人だけ殺しに行くんです。でもこれは主にエリートしか出来ないので人数は少なめです。二つ目は『亡者達の魂の監視と慰安』です。これは私達が死神と認定されてから八年間任される仕事なんです。といっても、亡者達の監視はそんなに苦じゃないんです(ぐすっ)。今日私は亡者の魂を慰めるために一回忌≠ニ称して(これも仕事内容です)この現代に亡者とともに来たんですよ。そしたら亡者達、どうやら死んで残してきた家族を思い出しちゃったようで・・・ちょうどこの上空でストライキを始めちゃったんですよぅ…亡者達の陰≠フ気は強いんで、私達は彼らがあまり一ヶ所にとどまらないようにしなければならないんです。なのに・・・・・・」
「失敗した、と」
 示記が死神の言葉を続けたのと、死神が泣きながら机に突っ伏したのは同時だった。

「・・・蛇尾丸、俺達って今日厄日?」
示記は額に左手を当てながら、隣にいる蛇尾丸に話しかける。
「多分示記の日頃の行いが出たんですよ。」
「なっ!?!」。
「それで…トムさん、ほら、さっさと起きて。その亡者達は何人居るの?」
 蛇尾丸は死神のナイトキャップ引っぱってちゃんといすに座らせる。死神はぐっと少しうなった後、ぼそっと言った

「・・・・・・二百九人」
「にひやくきゆう!?」
 その数字に、示記と蛇尾丸は同時に叫んだ。
人ならともかく依頼人は死神。しかも半端じゃない数の霊たちを一人ずつ異界へ送還しなければならないという依頼なのだ。示記はこれまでに何度も一般人から、かなり多彩で無茶な依頼を頼まれて来ていて、それなりのプロだから、多少のことでは驚かない。
しかし、今回は依頼の上に『めちゃくちゃ面倒で地味で無謀な』という修飾語が付きそうなほどなのだ。
 しかも、示記に選択権はない。なぜなら、もしこれを放っておけば、気温は霊の発散する負力に負けて下がり続ける。そうなってしまえば、この町には二度と夏などというものは到来しなくなり、一年中冬と化してしまうだろう。現に、窓の外をうかがうと、道路を囲うように植えられた並木は一枚、また一枚、と緑鮮やかな葉を落とし、幹は枯れ木のように灰色に変色している。
示記は大きくため息をついて持っていたペンを置き、観念したように心無く言った。

「・・・・・・分かったよ。その依頼、引き受けてやるよ」
 途端に、うなだれていた死神は瞬時に顔を上げ、机の正面に居るにもかかわらずスライディングしながら、示記の手を握ってきた。
「うわぁあああ有難うございますううううぅぅえ〜このご恩を何と、おかえしすれよろしいのやら本当迷惑かけますそうですよ元はといえば全て私の責任そうです私の罪ですああすみませんすみません謝りますいえいっそお裁き下さいおーさーばーきーをー!!」
 示記はまたはあぁ〜とため息をつき、固めた左手を斜め前に突き出した。



「すみません、一度ならず二度までも・・・」
 右頬に示記の左正拳をうけて、うなだれながら謝っているトムを無視し、示記は服の袖をめくると墨をたっぷりつけた筆で印≠示す。すると、示記の体は縮み、示記の居たところには示記の顔をした十歳前後の子供が立っていた。
「あーとーはー・・・」
示記はぱたぱたと2階へ上がり、いつも任務≠行う時に使うコートとゴーグルを装着して降りて来た。手には黒いツヤのある30センチメートルほどの棒と『風邪法散』とラベルが貼られた、50センチメートルほどの細長いドラム缶を抱えている。

「え…今日はカバン持ってかないの?」
 蛇尾丸が怪訝そうに聞いた。




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